誰もが1度は観たことがある映画、サウンド・オブ・ミュージックを英語の学習にあてようと思います。

さて、前回のエピソードでは、男同士がオーストリア併合をめぐって舌戦をくりひろげていました。

一方で、こんどは女同士のつばぜり合いとでも言いたいところですが、そこは純粋無垢で人を疑うことを知らないマリアが相手です。

百戦錬磨の男爵夫人にかかれば赤子の手をひねるようなものでしょうか。

男爵夫人は、絶妙な勘を働かせて、まだ当人同士は自分たちの気持ちに気づいていないにもかかわらず、大佐とマリアの胸の奥底に芽生え始めた気持ちを見抜いていました。

マリアにドレスを着替えるように勧めて、マリアの部屋に来た男爵夫人はさも好意のあふれる親切なふりを見せます。

パーティー用のドレスなどもっていないと戸惑うマリア。

Maria: I really don’t think I do have anything that would be appropriate.

マリア「パーティーに相応しいドレスなんて持ってないと思うんです」

Baroness: Now, where is that lovely little thing you were wearing the other evening? When the Captain couldn’t keep his eyes off you?

夫人「この前の晩に着ていたかわいいドレスはどこにあるの。大佐ったら、貴女をじっとみつめて目をそらさなかったことよ」

さあ、ここからは、夫人の手練手管の見せどころです。

Maria: Couldn’t keep his eyes off me?   「あの方がじっと見つめていたのですか」

 

Baroness: Come, my dear, we are women. Let’s not pretend we don’t know when a man notices us. Here we are.

「あらまあ、女同士でしょ。男性が好意を寄せてくれているときにカマトトぶったりしないことよ。さあ、この服がいいわ」

Maria: The Captain notices everybody and everything. 「大佐はだれにでも、何にでも気を配っておられるのですわ」

Baroness: Well, there’s no need to feel so defensive, Maria. You are quite attractive, you know. The Captain would hardly be a man if he didn’t notice you.

「いいこと、そんなに身構える必要ないのよ、マリア。貴女はとっても魅力的よ。もし大佐がそれに気づいてないとしたら男として失格よ」

Maria: Baroness, I hope you are joking.  「男爵夫人、ご冗談をおっしゃっては困ります」

Baroness: Not at all. 「とんでもないわよ」

Maria: But I’ve never done a thing to…   「だって、私は、一度だって…」

Baroness: But you don’t have to, my dear. 「貴女がしなければならないことはないの」

さて、ここまで言って、男爵夫人は次の言葉を投げかけます。

Baroness: There’s nothing more irresistible to a man than a woman who’s in love in him.

さて、今回はこれが問題です。

これを翻訳するとしたら、どう言ったら良いでしょうか。








はい、言いますよ。

男爵夫人「男の人って、自分に恋してくれている女性ほど愛しいものはないのよ

勝ち気な男爵夫人にとって、いままで世の中で恋敵のような存在はたくさん居たのかもしれません。

しかしマリアのような存在は、むしろ初めてだったのでないでしょうか。

そんな夫人にとって、大佐がマリアへの想いを深める前に、なんとしても排除しなければならないと思っていたのではないでしょうか。

この言葉が、恋などというものにまったく無縁で、自分が恋していることなど思いもしなかったマリアに衝撃を与えます。

Maria: In love with him?  「あの方に恋しているのですって」

Baroness: Of course. And what makes it so nice is he thinks he’s in love with you.

「もちろんですとも。そして、とっても素敵なことに、彼も貴女に恋しているって思ってるのよ」

Maria: But that’s not true. 「でも、そんなこと、あり得ません」

Baroness: Oh, surely, you’ve noticed the way he looks into your eyes. And you know, uh, you blushed in his arms when you were dancing just now.

夫人「あらあら、間違いなく、貴女だって、ご自分を見つめる彼の目に気づいていたはずだわ。そうやって踊っていて、彼の腕の中で頬を赤らめていたのよね」

夫人は、しかし、ここで残酷な一撃を加えるのでした。

Baroness: Don’t take it to heart. He’ll get over it soon enough, I should think. Men do, you know.

夫人「だからって本気にしちゃだめよ。彼はすぐに忘れてしまうわ。男ってそうなの、分かるでしょ」

get over をどう訳すかですが、ここでは「忘れる」が適訳と思います。get over は「乗り越える」が元々の意味ですが、「乗り越える→克服する→忘れる」という意味の広がりを持ちます。

Maria: Then I should go. I mustn’t stay here. 「もうここには居られません。お暇をいただかなければ」

ついに、マリアは夫人の思うつぼにはまりました。

Baroness: Is there something I can do to help? 「なにかお手伝いできることあるかしら」

Maria: No, nothing. Yes, please don’t say a word about this to the Captain.

マリア「いいえありません。いや、あります。大佐にはこのことを決して言わないでください」

Baroness: No. No, I wouldn’t dream of it. 「絶対にそんなことしないわ」

(dream of it という表現が大げさですが、夫人にとっては願っていた通りの展開で、つい出てきた言葉といえましょう。)

(さらに、部屋を出て行く夫人は、おそらく、こころのなかでほくそ笑んで、マリアに次の言葉を投げかけます。)

Baroness: Goodbye, Maria. I’m sure you’ll make a very fine nun.

夫人「さようなら、マリア。貴女はとっても優秀な修道女になれるわ」

この make は前出です。これは、人が成長、修行などして何者かになるという意味合いの make です。

人形劇の後、夫人に「貴女にはできないことなんてないんじゃないの」と言われたときに、マリアは、

I’m not sure I’ll make a very good nun.

と答えていました。男爵夫人は、これを覚えていて、心の中で精一杯の皮肉のつもりで「きっと良い修道女になれるわ(貴女にはそれがお似合いよ)」と、本当はとげのある言葉を投げかけたのです。

そして、マリアは、この屋敷に初めて来た時の服装で、ギターを抱え、この屋敷を後にします。

 

次回につづきます。

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