はい、次の日本文を素直に訳してみてください。

◎昨晩、裏庭でトリ(鶏)を食べました。

状況としては、裏庭で(in the backyard)バーベキューでもやって食べたのでしょうか。

さてこの問題文の内容は、ある日本人が次の英文を書いてきたとマーク・ピーターセン氏が「日本人の英語」(岩波新書)で書いているエピソードから拾ったものです。

Last night, I ate a chicken in the backyard.

これを読んだときに氏は「笑うべきか泣くべきか」迷ったと書いています。(彼は日本の事情、日本人の書く英語に精通しているので相手の意図は十分に理解したのですが。)なぜなら、この英文が伝えるイメージは次のようなものだからです。

「昨晩、鶏を一匹捕まえて、そのまま丸ごと裏庭で食べてしまった。」

彼はこうも言っています。正しい英文としても、間違いの英文としても、傑作と言って良いものである。正しい英文として読めば、簡潔で、とてもヴィヴィッドで説得力のある表現になる。なぜなら次のような情景が浮かんでくるから――「夜が更けて暗くなってきた裏庭で、血と羽だらけの口元に微笑を浮かべながら、膨らんだ腹を満足そうに撫でている。」

なぜこんなことになってしまったのでしょう。それでは正しい(本来書いたらよかった)英文を示します。

Last night, I ate chicken in the backyard.

違いは a chicken と書くか、単に chicken と書くか、つまり冠詞の a があるかないかです。

前回 Topic 114life と言う単語を取り上げました。a lifelife の違いが「目に見えるかどうか」「具体的なイメージがあるかどうか」が可算と不可算の区別の仕方であると書きました。

そうなのです。トリ、鶏、チキンも一緒です。

ニワトリが一羽、二羽と裏庭で遊んでいるイメージがくっきりと見える場合は、a chicken, two chikens となります。

それが食肉加工されてしまって、バーベキューで焼かれているものはもはや鶏の形は消えています。だから冠詞のない chicken になります。

たった一つの a があるかないかで、ホラー映画のようになってしまうと言うお話でした。

 

 

 

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