英語の論文を日本語に翻訳するときにしばしば対面する「問題」があります。

それは「問題」という日本語に訳す時に、考えなければならない「問題」です。

最近、知の巨人、アマルティヤ・セン(Amartya Sen 経済学者、1998年にノーベル経済学賞を受賞)の論文を翻訳していました。その中で出てきた、problem, issue, question はいずれも日本語で「問題」という意味を持っています。

しかし、それぞれの単語にどのような違いがあるかをちゃんと区別、意識して文章を読み取ることが大切です。

実際に、出てきた文章を参照してみましょう。

There may be a misdiagnosis about where the main problems lie.
主要な問題がどこにあるかについて間違った診断をしているかもしれない。

The critical issue is not whether the poor are getting marginally poorer or richer.
深刻な問題は貧しい人々がほんのわずかに、より貧しくなったか、より豊かになったかではない。

The central question is not whether to use the market economy.
中心となる問題は市場経済を利用するかということではない。

ついでに有名なセリフで question が使われている例です。

To be or not to be, that is the question.
生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。

それでは、それぞれの「問題」にどのようなニュアンスの違いがあるのかみていきましょう。

まず problem です。この単語は「困った問題」「難問」というニュアンスがあります。従い、それは解決されなければなりません。「問題を解決する」は solve a problem となります。solve の名詞が最近はやりの solution です。

つぎに issue です。この単語は「課題」「論点」というニュアンスを持っています。したがって、問題について議論する(discuss the issue)ものです。 issue はもともと語源として「外に出す」という意味をもっています。課題、論点を外に出して論じるわけです。issue は出版物などの「発行」という意味でも使われますが、「外に出す」という語源を考えれば理解ができます。

最後に question です。一番典型的には「質問」という意味で使われることはご存知の通りです。だからこの「問題」に対しては「回答」で答えることになります。 answer a question というように。ただし、ニュアンスとしては、problemissue の中間的な意味合いでの「問題」として使われる場合もあるので注意が必要です。

「問題」を意味する questionが、どのように issueproblem と違うか、明確な区別ははかなり曖昧です。question の「問題」には2つのニュアンスがあります。

1.problem よりやや深刻さが低い「問題」
2.issue とほぼ同じ、論点という意味での「問題」

したがって、「問題」という意味で使う場合、 question は上記の1と2の意味を含んで、かなり広く、やや曖昧な状況で使うことができます。

おそらくですが、シェークスピアはそういう曖昧さも込めて question を使ったのでないでしょうか。

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