次の英文は、英語のウェブサイトの記述を一部変更したものです。原文では、英国のあるゴルフコースについて紹介をしています。

平易な文章ですので、どんな内容のことを言っているか、考えながら読んでみてください。

This closing hole has seen many a great golfer weep, Jean Van de Velde being the most notable of them all.  But I’m not going to write about him, you probably know already, and I don’t want to end on a negative!

それでは、どんな意味でしょうか。





参考までに、筆者の翻訳は、以下の通りです。

「この最終ホールで、多くの偉大なゴルファーたちが涙を呑んできた。その中で最も記憶に残るのが、ジャン・ヴァンデ・ヴェルデだ。しかし、ここで多くは語るまい。誰もがその話を知っているだろうし、悲観的な記述でこの文を締めくくりたくないからだ。」

ゴルフ好きな方は、ここまで読んだら、まず間違いなくその逸話をご存知でしょう。

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悲劇はこうして起こった

1999年全英オープンの最終日のこと。ゴルファーならだれもが憧れる、ゴルフ発祥の国での大舞台で、無名のフランス人ゴルファー、端正な顔立ちのジャン・ヴァンデ・ヴェルデに世界の目が注がれていた。

18番のティーに立ったときに彼のスコアは3オーバー。一方、それに続く複数の選手が6オーバーですでに試合を終えていた。

(トップの選手ですら3オーバーというスコアは、いかにこのゴルフコースが難しいかを物語っている。)

3打差のトップであることから、だれもが彼の優勝を信じ、彼自身も勝利を手中に収めたと思っただろう。

しかし、なにが起こるか最後までわからないのがゴルフだ。

この18番最終ホールは、小川がフェアウェイ両サイドからグリーン手前までを横切っている。(名物の小川には、ご丁寧なことにバリー・バーンという名前までついている。)

ティショットでドライバーを手にしたヴァンデ・ヴェルデの打球は大きく右に曲がり、隣の17番ホールのティグランド手前まで行ってしまう。(そこから安全にフェアウェイに戻したら、悪くてもダブルボギーで上がり、優勝できていたであろう。)

しかし、ヴァンデ・ヴェルデはそこで果敢にグリーンを狙って長いクラブを持つ。

すると打球は、グリーン右サイドのギャラリースタンドに当たって跳ね深いラフへ。さらにラフからバリー・バーン(小川)に打ち込んでしまう。

ウォーターショットを試みようと裸足になって水に足を漬けたところでボールが沈むという悲劇が重なる。

打ち直しの5打目がバンカーにつかまり、6打目で乗せて1パットのトリプルボギー。3打あった2位との差は悪夢のごとく消え去ってしまった。なんとかプレーオフ(決定戦)に進出したものの、地元スコットランド選手に敗れた。

これがゴルフ史上語り継がれている「カーヌスティの悲劇」である。(カーヌスティはこのゴルフ場の名前)

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いやはや、ゴルフの話が長くなってしまいました。

今日の本題は、実は次の太字の表現です。

This closing hole has seen many a great golfer weep,….

many という本来複数を表す形容詞の後に a という不定冠詞と名詞の単数形が続く「many a 単数名詞」の表現には、ときどきお目にかかります。たとえば、つぎの例文です。

  1. Many a man died in that battle.  (多くの人々がその戦争で死んだ)
  2. It remained a mystery for many a year.  (長い年月、謎のままだった)
  3. I’ve been there many a time.  (そこには数え切れないほど行ったことがある)
  4. Many a politician has promised to make changes. (多くの政治家が改革をすると約束をしている)

意味としては、「many + 複数名詞」と変わりがありません。

つまり、上記の文はそれぞれ、次のように書いてもよいはずです。

  1. Many men died in that battle.
  2. It remained a mystery for many years.
  3. I’ve been there many times.
  4. Many politicians have promised to make changes.

それでは、なぜこのような many a 単数名詞 の表現が使われるのでしょうか。

Marriam-Webster’s Learner’s Dictionary にはつぎのような説明がなされています。

The fixed expression many a/an… is more formal than the single word many, and it is much less common. Many a/an… is used mainly in literary writing and newspapers. Like the adjective and pronoun many discussed above, many a/an… is used to indicate a large number of something. However, it takes a singular noun, which can be followed by a singular verb.

「定型的な表現のmany a/an…は、単語のmanyよりもフォーマルな表現であり、一般的ではありません。many a/an…は主に文学作品や新聞などで使われます。前述の形容詞や代名詞のmanyと同様に、many a/an…は何かの数の多さを示すのに使われます。ただし、この場合は単数形の名詞を使い、単数形の動詞が続きます。」

説明は読んでの通りですが、上の下線を引いた部分に注目してください。many a/an 単数名詞の場合には、その名詞に合わせて動詞も単数形になることが重要なポイントです。

以下は、筆者の見解ですので、必ずしも正しいかは保証の限りではありません。あくまで参考までにお聴きください。

この「many + 複数名詞」と「many a/an 単数名詞」の関係は、all と each/every の関係と同様ではないかというのが筆者の考えです。

たとえば、次の文章を比較してみてください。

  • All great golfers are the same in their position at impact.(偉大なゴルファーは皆、インパクトの位置が同じだ)
  • Every great golfer is the same in his or her position at impact.(どの偉大なゴルファーも、インパクトの位置が同じだ)

日本語として表すと意味はまったく一緒と言ってもよいことが分かります。

中学のときに、every や each の後には必ず単数名詞が来ると習ったのではないでしょうか。(ただし、これは必ずしも正しくありません。every twenty minutes = 20分ごとに、というように複数形の名詞が後に続くこともあります。)

この2つの文を見たときに、all great golfers の場合は、偉大なゴルファーというものを全体的に眺めてその集合を複数に扱っているのに対して、every great golfer は一人一人の偉大なゴルファーのそれぞれの偉大さを眺めて単数として扱った上で、そこでの共通している特性について述べています。

これと同じように、many great golfers は多くの偉大なゴルファーを全体的に眺めています。一方で、many a great golfer は、「この偉大なゴルファー」、「あの偉大なゴルファー」、「その偉大なゴルファー」という風に、ゴルファーの一人一人のことを意識した上で、総じて偉大であるという感じ方をしており、したがって、every/each と同じように単数扱いをしているのだと思います。

ということで、今回は、文語的、やや固い表現としての「many a/an 単数名詞」の表現について考察しました。

 

 

 

 

 

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